新型コロナウイルス 抗体検査と最新のダイヤモンドプリンセスの致死率

f:id:aahhpp:20200525104830j:plain


 

1.抗体検査の結果

5月15日に厚生労働省は東京、東北でそれぞれ500人ずつの献血データ、および新型コロナウイルス流行以前の保存血液500人分について日本赤十字社に依頼していた新型コロナウイルスの抗体検査結果を発表しました。結果は厚生労働省の「抗体検査キットの性能評価」(pdfの場所は下記)によると東京で最大3人(0.6%)、東北で最大2人(0.4%)、保存血液で最大2人(0.4%)でした。4種類の検査キットと1種類の試薬を用いる方法で調べたとのことです。当初は5月1日に発表との報道がありましたがなかなか発表されず15日にやっと発表されました。この抗体検査計画時に入手できたと思われるアメリカの抗体検査は抗体を保有している人が想定を超えて多いという結果でした。最初の発表は西海岸のカリフォルニア州サンタクララ郡の約1000人対象の検査で公表感染者数の50倍から85倍が抗体を保有している。すなわち感染していたというものです。その後ニューヨーク州で公表感染者数の約10倍、住民の15%が抗体検査陽性などの発表がありました。5月2日に神戸中央市民病院の外来患者の抗体検査で3.3%(年齢補正で2.7%)が陽性との発表もありました(ただし、神戸中央市民病院の発表時には厚生労働省の抗体検査はすでに終了していたと思われます)。おそらく厚生労働省は東京で2~3%くらいの陽性が出ることを想定していたのではないでしょうか。それで500人規模の検査人数で統計学的に十分としたのでしょう。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000630744.pdf

 

2.予想外の結果

しかし、今回の結果は意外なものでした。東京と東北では人口あたりの新型コロナウイルスの感染率に約10倍の差があります。東京の実質人口は住民基本台帳による人口より多いので倍率はもう少し低くなるとは思いますが大差があることは確かです。しかし、結果は1.5倍の差でしかありません。また、新型コロナウイルスに感染していないはずの2019年1月~3月の保存血液から0.4%の陽性が出ましたが、厚生労働省の注釈では (一般的には0.4%程度の非特異は許容)と記述されているのでそれ自体はあまり問題ないようです。問題は非特異、すなわち擬陽性の率を0.4%とすると、東京の結果は0.6%-0.4%=0.2%、東北の結果は0.4%-0.4%=0%となる可能性があることです。もちろん500人のデータなので誤差があることは当然ですが事前に想定されていたと思われる値よりずっと小さな値です。

 

3.サンプル上の問題点

ここで問題なのは東京、東北のデータが日本赤十字社の4月の献血データという点です。献血は原則16歳から64歳までが献血可能年齢です。日本赤十字社献血データによると年代別の献血率が大きいのは40代、50代です。この年齢は現在の日本人の平均年齢約49歳と大体同じなので年齢的な偏りはないと考えられます。しかし、4月に外出自粛が叫ばれていたときに献血する人は健康に自信がある人と思われます。例えば1週間前に熱があったが今は平熱という人は今回の献血には来ないでしょう。感染していた可能性がある人が献血に来た確率は低いと思われます(全く無症状の人は来るとは思いますが)。その結果、抗体の陽性率がやや低くなった可能性は有り得ると思います。6月以降1万人規模抗体検査を予定しているとの厚生労働省発表がありました。東京都や沖縄県でも抗体検査を予定しているようです。これらの抗体検査に期待します。

 

4.致死率について ダイヤモンドプリンセスの場合

ところで、抗体検査の結果、感染者の想定数が変わるとなると新型コロナウイルスによる想定致死率の値も変わってきます。日々発表される死亡者数を公表される感染者数で割っても公表感染者数は実際の感染者数の一部ですから便宜的な致死率でしかありません。現在、感染者の致死率がわかるのは乗客乗員のほぼ全員をPCR検査したクルーズ船ダイヤモンドプリンセスのデータです。5月16日現在の厚生労働省のデータ(新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について)によると陽性者712名(症状のある人は381名)で現在の死亡者は13名です。(オーストラリア帰国後に死亡した1名については船内での検査の状況が不明なので除く)。そうすると現在の致死率はPCR陽性者で1.8%、そのうち症状のあった人では3.4%となります。しかしダイヤモンドプリンセスの乗客には高齢者が多かったようですのでこの致死率を一般的な致死率とするには年齢補正をする必要があります。結局、PCR陽性者の致死率は1%ぐらい、症状のあった人で2%ぐらいがまずまずの推定値でしょうか。

 

5.患者致死率と感染者致死率

ここで抗体検査の結果、例えば、感染者がPCR陽性者の3倍推定されるとなると致死率が0.3%くらいとなります。インフルエンザの致死率が0.1%と推定されているようですからこの場合インフルエンザと比べて極端に重い病気ではないとの解釈も成り立ちます。そのような主張もネットでされています。しかし私は病気の重さを示す致死率は、症状のある人(患者)を基準にすべきと考えます。患者致死率は前述のとおり2%くらいと推定できます。すなわちインフルエンザの約20倍です。これが一般的な実感だと思います。抗体検査の結果によって病気の重さを示す患者致死率は変わらないということです。感染者を基準とした致死率は、感染者致死率として別に定義するべきでしょう。