資産運用 投資・投機・ヘッジの役割



1.はじめに

   資産を運用する方法として3種類がある。投資、投機、ヘッジである。運用を図で表した第1象限が投資、第2象限が投機、第3,第4象限がヘッジである。

 

第1象限 投資

 横軸の所(A)は現金または現金同等物を示す。資産運用は特にしないことになる。左回りに移動するに従ってハイリスクハイリターンの投資となる。縦軸の所(B)は極めてハイリスクハイリターンの投資となる。これは例えばベンチャービジネスへの投資が該当するだろう。

 

第2象限 投機

   投機の (B) はハイリスクハイリターンの投機である。これは例えば未整備の市場での投機が該当するだろう。左回りに移動するとローリスクローリターンの投機となる。横軸の(C)は完全効率化市場における投機である。投機による利益は偶然でしか得られない。実際には手数料があるので平均収益率はマイナスとなる。従って完全効率化市場では投機はギャンブルとなるので行われなくなる。

   図の上半分は平均的なリターンがプラスの運用を示す。

 

第3,第4象限 ヘッジ

    横軸の所はノーヘッジを示す。下に行くほど例外的なヘッジとなりヘッジコストが大きくなる。ヘッジはヘッジ対象物が存在することが前提である。縦軸の (C) の所は、ハイリスクハイリターンの投資や投機に対するヘッジである。

 

2.投資(図の第1象限

 投資とは資本を投じて金利、配当、賃料などの果実を得ようとする経済的行為である。しかし、キャピタルゲインを得ようとするのを投資でないとするのは誤りである。果実を得る替わりにキャピタルゲインを得るのも投資と考えられる。不動産を貸さずにそのまま所有するのは投機行為と非難されることも多いが不動産の場合は賃貸解約のコストが極めて高いので敢えて貸さずに所有するのも多くの場合投資と考えられる。

    ただ、投資と投機の境は微妙であってここまでは投資とか投機とか言えないのも確かである。

 

    ところで株式投資の場合を考えると多くの場合、市場から株を購入することになるがなぜ株を売却する人がいるのだろうか。その理由として

①現金が必要になった。

②もっと有利な投資先が見つかった。

③株価の下落を予想した。

④ヘッジの為。

のいずれかだが購入者としては①か④の理由による売却が望ましいということができる。②や③の理由による売却の場合の購入は一般的には好ましくない。しかし過剰な下落予想が発生する場合は別である。それは暴落時である。暴落時は①や④による売却も発生するため購入には最も好ましいタイミングと言える。

 

3.投機(図の第2象限)

 投機とは市場の変動を利用して利益を得ようとする経済的行為である。現在では株式や為替取引の90%以上は投機と言われている。株式取引では、ファンダメンタルに基づいた比較的長期の取引が投資、テクニカルや一時的な人気に基づいた取引が投機と見られているがこれもその境は微妙である。キャピタルゲインを得ようとする株式取引でも投資の場合があるのは前述したが投機の場合はほとんどキャピタルゲインを得ようとする取引である。

    さて、投機行為によってなぜ経済的利益が得られるのだろうか。それとも投機は平均するとゼロサム行為なのだろうか。株式取引や為替取引について書かれたハウツー本は掃いて捨てるほどあるがこのような基本的なことについて書かれた本は全くないと言ってもいいくらいである。逆に投機は全くのゼロサムで経済的に意味のない行為とする人もいる。

筆者は投機の経済的意味として効率的市場を形成する行為であると考える

 

効率的市場とは筆者の理解するところでは、以下である。

  • 市場に十分な流動性があり取引時間内では直ちに取引が可能である。
  • 情報は直ちに価格に反映される。
  • 非合理的な価格差が生じても直ちに修正される。(裁定取引
  • 価格はランダムウオークである。

 投機は効率的市場を形成する褒美として利益を得ているということができる。

では投機家は集団として誰から利益を得ているかといえばそれは真の投資家および投資のヘッジをする人からである。

 

    彼らに主として流動性を提供する替わりとして多少の利益を得ていることになる。逆に言うと真の投資家やヘッジをする人は流動性を提供してもらう替わりに多少割高に買い、多少割安に売っていることになる。もちろん投機家は他の投機家から利益や損失を受けることのほうが多いが投機家同士のやり取りはゼロサムである。従って投機家しかいない市場では投機はゼロサムでしかない。

    ただしこの場合、投機家にも序列があり他の投機家よりすばやく対応できる場合は平均的に利益を得ることが可能である。一般の市場では投機はプラスサムであるが手数料などのコストやすばやく対応できる投機家の存在を考えると投機で平均的に利益をあげるのは容易ではない。結果的には損失を被っている投機家の方が多いと思われる。彼らにとって投機はギャンブルと同じとなる。

 

4.ヘッジ(図の第3,第4象限)

   ヘッジは保険であって保険料(ヘッジコスト)を支払う替わりに大損を回避する経済的行為である。多少の損を許容するのがヘッジであって、この先株が下がりそうなので一部を売却するのは投資や投機の中止であってヘッジではない。一方で休みに入るので株の一部を売却するのはヘッジ行為といえる。つまりヘッジは平均的には損をする取引である。その意味ではギャンブルと同じであるがギャンブルと異なるのはヘッジ対象の資産を有している点である。

   ところで損切りも一定以上の資産の減少を防止するという点ではヘッジ行為といえるだろう。